側弯症の症状のひとつに消化器症状があると言われており、なかでも胃食道逆流症という病気との関係がしばしば報告されています。
この消化器症状は、児童期や思春期にはあまりみられませんが、大人になった成人期以降に自覚する可能性があります。
胃食道逆流症は側弯症特有の症状ではなく、様々な原因で生じることがあります。
その原因のひとつに、『脊柱の変形』があると考えられています。
つまり、胃食道逆流症は誰でも発症する可能性はありますが、側弯症を含め脊柱の変形があると発症しやすくなるということになります。
今回のスタディブログでは、胃食道逆流症とはどのようなものか、側弯症との関係、症状を和らげるためにできることなどをお伝えしたいと思います。
胃食道逆流症とはどんな病気?
胃食道逆流症とは、主に胃のなかの酸が食道へ逆流することにより、胸やけや呑酸(酸っぱい液体が上がってくる感じ)などの不快な自覚症状を感じたり、食道の粘膜がただれたりする病気です。
胃食道逆流症は、最も有病率の高い胃腸の病気の一つです。
胃食道逆流症は食道粘膜傷害を有する「びらん性逆流症」と、症状のみを認める「非びらん性逆流症」に分類されます。
びらん性逆流症は食道粘膜のただれを有するため「逆流性食道炎」とも呼ばれます。
何らかの胃食道逆流症症状を有する割合は、日本人の約18%程度と言われています。
一方で、びらん性逆流症(逆流性食道炎)の有病率は10%程度と言われており、びらん性逆流症と非びらん性逆流症の割合はおおよそ半々となります。
高脂肪食過食、飲酒過多、就寝前の食事、高齢、円背、ストレス、運動、下部食道括約筋圧を低下させる薬剤(カルシウム拮抗薬亜硝酸塩など)などが胃食道逆流症の増悪因子と言われています。
もっと詳しく知りたい方は、日本消化器病学会が作成している資料に《患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023》を参考にしてみてください。

こちらの資料は患者・家族に向けて書かれており、分かりやすくまとめられていますので、ぜひ目を通してみてください。
可愛いイラストも多く、とても見やすい資料となっています。

胃食道逆流症の英名はGastro Esophageal Reflux Disease。略してGERD(ガード)と呼ばれます💡
ちなみに、非びらん性逆流症は英語表記Non-Erosive Reflux Diseaseから「NERD(ナード)」とも呼ばれることがあります💡
胃食道逆流症の症状
胃食道逆流症の典型的な症状には、胸やけと呑酸(どんさん)があります。
胸やけは胸の奥の方で感じる焼けるような不快感で、呑酸は逆流した胃内容物が口腔内や下咽頭まで上がることを言います。
胸やけが特に生じやすいタイミングとしては空腹時や夜間です。
胸やけがひどいせいで、夜中に目が覚めてしまったり、心臓の病気と同じような胸の痛みを感じたりすることもあると言われています。
胃酸の逆流は食後2~3時間までに起こることが多いため、食後にこれらの症状を感じたときは胃酸の逆流が起きている可能性があります。
またその他にも、のどの違和感、よく咳き込む、声がかれるなど、食道以外の症状が出ることもあります。
基本的に胃食道逆流症は命に関わるような病気ではありませんが、わずらわしい胸やけ症状が日常生活に様々な影響を及ぼし、生活の質が低下しやすくなります。
とくに食事が十分に楽しめない、ぐっすり眠れない、仕事がはかどらないなど、生活の質が損なわれます。そのため、早く正しい診断を受け、適切な治療を始めることが大切です。

なぜ、胃酸が逆流するの?
胃食道逆流症の症状は胃酸が逆流することで起こるのですが、そもそもなぜ胃酸が逆流してしまうのでしょうか。
胃酸の逆流は食道と胃の接合部で何らかの異常がある場合に生じます。
正常であれば、食道・胃接合部は高圧帯(圧が高い状態)を形成しており、通り道が基本的に狭くなっています。
食道・胃接合部がキュッと締まっていることで胃食道逆流を防いでいるわけです。
この食道・胃接合部をキュッと締める役割を担っているのが、下部食道括約筋と横隔膜脚というものです。
つまり、下部食道括約筋と横隔膜脚の機能がうまく働かない時に胃食道逆流が生じてしまいます。
胃食道逆流が生じるパターンには、大きく3つあります。
「下部食道括約筋の機能低下」、「食道裂孔ヘルニア」、「腹圧上昇」の3つです。

下部食道括約筋の機能低下
胃と食道の境目にある下部食道括約筋が本来締まっているべき時に緩んでしまうなど、下部食道括約筋がうまく働かない状態のことを指します。
下部食道括約筋の機能低下は、胃食道逆流の主要因となります。
- 下部食道括約筋の機能低下には「一過性下部食道括約部弛緩」というものがある。
- 食道・胃接合部は通常締まっているが、嚥下時には一時的に弛緩することで食道内の食物が胃内に流入させている。一方で、嚥下時以外にも食道・胃接合部が弛緩する現象が知られており、その状態を一過性下部食道括約部弛緩と呼んでいる。
- 一過性下部食道括約部弛緩は胃の伸展(伸ばされる)刺激に伴って迷走神経を介して生じ、タイミングとしては食後に生じることが多い。
- 健常な方の胃食道逆流症状のほとんどが一過性下部食道括約部弛緩時に生じる。
食道裂孔ヘルニア
食道裂孔ヘルニアとは、本来お腹の中にある胃の一部が横隔膜にある食道が通る穴(食道裂孔)から、胸の方に飛び出してしまった状態のことを指します。
下部食道括約筋と横隔膜脚の位置がズレた状態とも言えます。
- 食道裂孔ヘルニアでは胃食道逆流を防ぐバリア機能が低下してしまうため、容易に胃食道逆流が生じてしまう。
- 食道裂孔ヘルニアがあると、仰向けになるだけでも胃食道逆流が生じるなど、自然発生することが増え、重症の食道粘膜傷害を起こす原因となる。
- 食道裂孔ヘルニアは、加齢・肥満・妊娠・外傷・脊柱変形など様々な原因によって生じる。
腹圧上昇
腹圧とはお腹の中の圧力のことです。
咳嗽時や発声時、しゃがみこんだ時、物を持ち上げた時などに腹筋に力が入ることで腹腔内に圧力が加わることを指します。
- 健常な状態であれば、腹圧上昇するだけで胃食道逆流が生じることは稀。
- 食道裂孔ヘルニアがあるなど、バリア機能が低下した状態で腹圧上昇が生じると、胃食道逆流に繋がりやすい。
- 腹圧は体型や姿勢によっても変化し、肥満や猫背のような姿勢は腹圧上昇に関係する。
これらの要因がそれぞれ単独で症状を引き起こすこともありますが、複数の要因が重なっている場合もあります。
では、これらの要因は一体どのように側弯症と関係しているのでしょうか。
胃食道逆流症と側弯症の関係
胃食道逆流症と関係するのは、主に成人脊柱変形と呼ばれるものです。
成人脊柱変形というのは、成人期(18〜65歳ごろ)にみられる脊柱変形の総称で側弯変形も含まれます。
成人脊柱変形が生じる原因には以下のようなものがあります。
成人脊柱変形の原因
・椎間板変性を主体とする変性側弯・変性後弯
・骨粗鬆症や外傷による椎体骨折後の変形
・思春期特発性側弯症や先天性脊柱変形の遺残(いざん)
・脊椎手術後に生じた医原性変形
・Parkinson病などの神経筋疾患に起因する変形
成人脊柱変形のなかでも、椎体骨折後の変形や後弯変形(腰曲がり)は胃食道逆流と関連することがよく報告されています。
一方、変性側弯や思春期特発性側弯症については報告が少ないものの、いくつかの論文で胃食道逆流と関係する可能性が述べられています。
【成人の側弯症と胃食道逆流症の関係】
40歳以上の190名に対し、側弯症の有無が胃食道逆流症のスコアに影響を及ぼすかを調査。
左凸の胸腰椎カーブあるいは腰椎カーブが30°以上の場合に胃食道逆流症になるリスクが約10.9倍になる。
– Hosogane N, et al.: Scoliosis is a Risk Factor for Gastroesophageal Reflux Discase in Adult Spinal Deformity, 2017.
【思春期の側弯症と胃食道逆流症の関係】
思春期特発性側弯症患者の食道裂孔ヘルニア発生率は術前6.2%であったが、側弯症矯正手術後は2.1%に減少した。
– Dickson JH, et al.: Pre- and postoperative evaluation of scoliotic patients for hiatal hernia, 1973.
胃食道逆流が生じる要因には大きく、「下部食道括約筋の機能低下」、「食道裂孔ヘルニア」、「腹圧上昇」の3つがあると説明しましたが、これらのうち脊柱変形を有する場合には、「食道裂孔ヘルニア」、「腹圧上昇」が生じやすくなる可能性があります。
上記の論文などの知見は、腰曲がりのような横から見た脊柱変形だけでなく、側弯のように前から見た脊柱変形でも胃食道逆流に関連することを示唆しています。
側弯症があると食道裂孔ヘルニアになる可能性が健常者よりも少し高く、胸腰椎カーブや腰椎カーブが左凸で30°以上ある場合には胃食道逆流症になるリスクが高くなる可能性があると言えます。
側弯カーブが胃食道逆流症を誘発するメカニズムとしては、横隔膜の解剖学的変化などが考えられると論文では述べられています。

横隔膜は上位の腰椎に付着しているため、この位置に側弯カーブがあると横隔膜にある食道が通る穴(食道裂孔)が歪んでしまい、食道裂孔ヘルニアや最終的には胃食道逆流症を引き起こす可能性があると考えられています。
食道裂孔自体は胸椎の10番目に位置するため、下位の胸椎から上位の腰椎の範囲内に側弯カーブの頂点が位置する場合も胃食道逆流症の症状が生じやすいかもしれません。
実際に、食道裂孔ヘルニア患者の脊柱変形を評価した研究では、患者の24%に側弯症があり、その多くは側弯カーブの頂点が横隔膜の位置と一致していたと報告されています。
一方、腹圧上昇に関しては、胸腰椎カーブおよび腰椎カーブがあることで胃自体や胃食道移行部にある腹部臓器が腹壁に向かって押し出されることが影響すると考えられています。
腹部臓器が押し出されることでお腹の圧が高まり、これが胃酸逆流や食道裂孔ヘルニアを引き起こすことにつながりやすくなります。
これらのメカニズムなどから、側弯症の方は胃食道逆流症を発症しやすくなると考えられています。
胃食道逆流症のセルフチェック
胃食道逆流症の症状を評価するための簡便な質問票に、FSSGというものがあります。
FSSGとはFrequency Scale for the Symptoms of GERDの略で、 2004年にKusanoらにより開発されました。
この質問票は、12項目の質問に答えることで胃食道逆流症の可能性を判断することができます。
総合計点数が「8点」以上の場合に、胃食道逆流症であることが高いと言われていますので、参考程度にセルフチェックしてみてください。
⚠️8点以上でも必ず胃食道逆流症があるとは限らないので、心配な場合は受診するようにしてください。

FSSGの質問内容は、酸逆流関連症状《緑色》と運動不全(もたれ)症状《水色》の項目に分かれており、自身の症状の特徴を把握しやすくなります。
酸逆流関連症状は胸焼け、呑酸、咳、胸の痛み、声のかすれ、喉の違和感などの症状のことを言います。
運動不全(もたれ)症状は胃の運動機能が低下することで、食べた物が胃に長く留まり、胃もたれや早期満腹感などの不快な症状を引き起こす状態を指します。
FSSGでは、酸逆流関連症状と運動不全(もたれ)症状のそれぞれの点数も計算でき、どちらの症状が主として生じているかをチェックすることができます。
症状改善のためにできること
近年の胃食道逆流症の増加には、食生活を含めた生活習慣の欧米化が大きな要因と考えられており、胃食道逆流症の治療において食事指導を含めた生活指導は第一に行うべきと言われています。
生活習慣を改めることで、逆流性食道炎の粘膜傷害や胸やけ、呑酸といった症状が軽快する可能性があります。
【悪い生活習慣と良い生活習慣】
多くの研究をまとめると、特に以下の4つの対応が効果的とされています。
- 肥満者に対する減量
- 喫煙者に対する禁煙
- 夜間症状発現者に対する遅い夕食の回避
- 就寝時の頭位挙上
夕食の時間に関して、就寝前3時間以内に夕食をとることは、4時間以上空ける場合に比べ胃食道逆流症を発症しやすくなると報告されており、可能であれば寝る4時間以上前に夕食を取ることが推奨されます。
就寝中の頭位挙上については、下半身に対して25cm程度の上半身を高くすることで、就寝中の酸逆流を抑制することができると言われています。
これらの対応は一般的なもので、側弯症の方にも十分効果的であると思われます。
一方で、側弯症の方が特に注意すべき生活習慣などについては、研究では示されておりません。
しかし、側弯症による胃食道逆流症のメカニズムを考えると、普段の姿勢や食事の際の姿勢を注意することが大切と思われます。
姿勢と胃食道逆流との関連については以前から指摘されており、側弯とは異なりますが、猫背のような背中が丸まった姿勢では腹圧が高まることから、胃食道逆流が生じやすくなる可能性があります。
側弯症の場合も、なるべく脊柱が真っ直ぐになる方向に意識して姿勢を正すことが重要になります。
例えば、床に座って食事する場合に、横座り(人魚座り)で食べる方もいるかと思います。
その際に、横座りの方向によっては側弯が一時的に強まり、腹圧の上昇を助長される可能性があります。
具体的には、胸腰椎・腰椎カーブの凹側に足を投げ出している姿勢は良くない可能性があります。
このような姿勢は骨盤の傾きの影響から胸腰椎・腰椎カーブが一時的に大きくなり、腹圧が上昇しやすくなります。
そのため、胃食道にかかる負担を少しでも減らすように、胸腰椎・腰椎カーブの凸側に足を投げ出した横座りを意識することがお勧めです。
腰を触ってみて、カーブが出っ張っている側に足を投げ出して座るようにすれば大丈夫です。

椅子に座って食事を摂るときも、なるべく姿勢を良くすると多少は胃食道にかかる負担は軽減する可能性があります。
ずっと意識してご飯を食べるのは大変という方は、胸腰椎・腰椎カーブの凸側のお尻にタオルを敷いたり、お尻のポケットにハンカチを入れておくと、意識しなくても良い姿勢を取りやすくなります。

日頃から姿勢を正すように意識することは、胃食道逆流症の対策という意味だけでなく、様々な観点から重要ですので、できる範囲で実践していただけたらと思います。
まとめ
- 胃食道逆流症とは、主に胃酸が食道へ逆流することにより、胸やけなどの症状を感じたり、食道の粘膜がただれたりする病気です。
- 胸腰椎カーブや腰椎カーブを要する側弯症の方は、胃食道逆流症の症状を感じやすい可能性があります。
- 側弯症によって腰椎が傾いたり肋骨が変形し、横隔膜の位置関係が変化することで胃食道逆流症につながりやすいと考えられています。
- 胃食道逆流症の症状を簡易的にチェックできる問診票などがあります。
- 胃食道逆流症の一般的な対策は、減量・禁煙・遅い夕食の回避・就寝時の頭位挙上などが挙げられます。
- 側弯症の方の対策としては、食事の際に腰椎カーブが大きくならない姿勢を心がけることも大切です。

側弯症と胃食道逆流症の関係は多くの研究があるわけではなく、明らかになっていない部分もあります🌀
胃食道の症状が気になった際は、自己判断せずに必ず医療機関を受診するようにしましょう💡
参考文献
日本消化器病学会: 患者さんとご家族のための胃食道逆流症(GERD)ガイド2023, https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/gerd_2023.pdf.
日本消化器病学会: 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021, 南公堂.
武田デバ:胃食道逆流症ってどんな病気?, https://www.med.takeda-teva.com/di-net/takedateva/shidosen/GERD-P01C-AIGA.pdf.
ロート製薬: 「逆流性食道炎」の原因・症状を解説, https://jp.rohto.com/learn-more/gastrointestinal/stomach/symptom/.
Hosogane N, et al.: Scoliosis is a Risk Factor for Gastroesophageal Reflux Discase in Adult Spinal Deformity, 2017.
Gavala S, et al.: The pathogenesis of diaphragmatic hernia of the hiatus in its possible relations to change of the spine, 1961.
鷲澤尚宏: 食道裂孔ヘルニア, 2022.
Kusano M, et al.: Development and evaluation of FSSG: frequency scale for the symptoms of GERD. 2004.
足立経一ら: 胃食道逆流症の生活指導,食事指導, 2019.