脊柱側弯症検診のあり方について(側彎症学会)

日本側彎症学会のサイト上で、「脊柱側弯症検診のあり方について」公開しています。

側弯症は早期発見がとても重要です。

その重要な役割を担うのが学校で行われる運動器検診(側弯症検診)です。

現在は都道府県や関連団体の協力のもと、運動器検診へのAIデバイス導入など、少しずつ検診精度の向上が図られています。


2025年6月16日
一般社団法人 日本側彎症学会
理事長 髙橋 淳

小児期の側弯症診療における最大の目標は、できるだけ早期に発見し、適切な保存療法を実施することで重症化を防ぐことです。その結果として手術を回避し、治療を完結することが可能となります。この目標達成のためには、「早期発見のための脊柱側弯症検診」と「進行予防のための装具療法」という二本柱が極めて重要です。保存療法によって背骨が完全にまっすぐになるわけではなく、整容上の問題を完全に解消することは困難です。しかし、軽度側弯の状態で成長終了を迎えることができれば、生活の質を損なうことなく、機能的には側弯症のない方々と何ら変わらない日常生活を送ること可能です。

この二本柱の一つである装具療法については、2013年に信頼の高い研究にて側弯進行抑制効果が証明されました。もう1本の柱である脊柱側弯症検診についても、その有効性を根拠として、現在、多くの国で導入が進められています。

我が国においても2020年度に策定された「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」において、学童期における脊柱側弯症の早期発見が明記されました。これを受けて、日本側彎症学会(本学会)は、全国の児童・生徒が等しく適切な脊柱側弯症検診が受けられるよう、文部科学省事業に協力する形で、客観性の高い検査機器を用いた脊柱側弯症検診の普及に取り組み始めました。2024年3月には、同省から学校保健関連委託事業の成果物として「検診機器を用いた脊柱の検査の準備の手引き」が公表され、現在、側弯症機器検診を導入・実施する基盤は整いつつあります。

このように、こどもたちの利益を最優先に考え、関係企業の支援を得ながら、日々取り組んで参りました。しかし近年、急激な社会構造の変化や価値認識の多様化により、検診費用や機器調達、脱衣を含むプライバシーの問題、受診拒否、個人情報保護法下でのデータの管理・活用など、さまざまな課題が顕在化してきており、機器を用いた側弯症検診の実現への障壁となっています。 特に昨年、ある検診機器の製造販売会社が、不採算などを理由にその機器の販売・保守管理・修理対応の中止を突如発表するという重大な事案が発生しました。本学会では、この決定の撤回を求めて、複数回にわたり働きかけを行いましたが、不本意ながら解決には至りませんでした。

今後はまず、社会への啓発と正しい情報発信を通じて、こども、保護者、学校関係者に、検診の意義を理解して頂くことが重要です。安心して側弯症検診を受けられるようプライバシーに配慮した環境を整備し、行政や教育機関と連携して検診の導入と円滑な実施につなげていく必要があります。さらに、市場の経済状況などに左右されない、安定した検診機器の提供および保守点検体制の維持、検診結果に応じた事後措置のマニュアル化、検診データのフィードバックによる検診精度向上といった取り組みを実行し、有意義な側弯症機器検診の全国的な展開と定着を目指さねばなりません。

本学会は、側弯症の診療・研究を専門とする学術団体として、こどもたちが企業の収益上の都合などによって不利益を被ることのない側弯症検診システムの構築と、それを長期的に安定して供給できる社会環境の整備こそが最も重要であると認識しております。今後も、関連団体・機関と協力し、その実現に向けて努力して参ります。

引き続き、皆様のご理解を賜りますとともに、ご高配のほど宜しくお願い申し上げます。


運動器検診が十分に機能することは、側弯症の早期発見・早期治療に直結します。

今後さらに運動器検診が充実し、側弯症の子供たちの未来がより良い方向に向かうことに期待したいです。

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