こんにちは!今回は側弯症手術の合併症についてお伝えします。
「手術」=「怖い」という印象を持たれている方も多いと思います。
それもそのはずで身体にメスを入れることになりますから不安で当然です。
手術で病気が良くなると分かっていても、スッと受け入れられないことが多いのではないでしょうか。
その背景には、『手術によってトラブルが起きたらどうしよう』という漠然とした不安があると思います。
そのトラブルのひとつが合併症です。
側弯手術は手術時間も長く身体への侵襲も大きな手術です。
合併症のリスクを大まかにでも理解しておくことは漠然とした不安を軽減させることにも繋がると思います。
今回のスタディブログでは、側弯手術にはどのような合併症があってどの程度の頻度で起こるのかをみていきたいと思います。
⚠️ひとつ注意点としては、側弯症手術といっても、側弯症の種類によっても合併症リスクは異なります。
⚠️ここでは最も頻度の多い《特発性側弯症》に関する合併症の情報をまとめています。
手術を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
【特発性側弯症とは】
側弯症はその原因や発症時期によって分類されます。
原因によって分類されるものには大きく3つあります。
『先天性側弯症』、『神経筋原性』、そして『特発性側弯症』の3つです。
側弯症のなかで最も頻度が高いのが特発性側弯症です。
今回はこの特発性側弯症のお話になります。
《⬇︎コチラも参考にしてください⬇︎》
【どのような手術を行うのか】
側弯症の弯曲の大きさを示したコブ角という角度が40°や45°を超える場合は手術が検討されます。
側弯症の手術ではインプラントを用いて脊柱を真っ直ぐに近づくように矯正することが一般的で、全身麻酔下で行われます。
具体的な流れは、背中を切開→それぞれの脊椎にスクリューを挿入→ロッドを繋いで側弯した脊柱を真っ直ぐに矯正→インプラント周囲に骨移植→閉創、といったイメージです。

手術時間は手術の方法やインプラントで固定する脊柱の範囲によっても異なりますが、麻酔導入から覚醒までを含めるとおおよそ6時間かかります。
手術中の出血量は500〜1000ml程度といわれています。
手術の体位は手術方法によって異なりますが、うつ伏せが多いです。
傷の大きさは20〜50cm程度です。
【論文からみた合併症について】
手術技術や手術器具の精度が向上した現在においても、側弯手術には一定数の合併症が起こってしまうのが現状です。
特発性側弯症の手術全体では15.6〜22.3%の患者において、入院中に何らかの合併症が生じたとの報告があります。
このデータは米国が全国規模(4000施設以上の病院)で調査したもので、20346名の患者データを解析したものです。
合併症の割合が「15.6〜22.3%」と聞くとかなり多いように思いますが、この数字には手術創の出血、尿路感染など比較的軽微な合併症も幅広く含まれています。
一方、日本の論文では合併症の割合は3.7〜8.8%との報告があります。これは1187名の患者をまとめたものです。
日本の合併症の割合はかなり低いように思えますが、この数字には軽微な合併症は含まれておらず、運動麻痺や感覚障害、感染、大量出血などの重大な合併症のみをカウントしています。
これらの研究方法の違いから結果の数字は大きく異なります。
様々な条件をそろえると、各国間の合併症リスクの割合には大きな違いはない印象です。
軽微な合併症も含めると、入院中に1割〜2割の患者でトラブルが起こってしまう可能性がありますが、重大な合併症に限局すればその割合は1割以下といえます。
今回は側弯手術の合併症を大きく3つに分けて説明します。
3つとは『神経損傷』、『術後感染』、『それ以外の合併症』です。
では、ひとつずつ見ていきましょう。
神経損傷
手術中に生じる神経損傷は最も怖い合併症です。一過性の神経麻痺のものから、完全麻痺を引き起こす損傷があります。神経損傷が生じた場合は、身体の一部が動きにくくなったり感覚が鈍くなったりすることがあるため、細心の注意を払って手術が行われます。
- 思春期特発性側弯症手術における神経損傷の発生率は0.69%~1.06%との報告がある(海外論文)。
- 2014年の国内データでは思春期特発性側弯症の手術患者699名のうち、運動麻痺の合併症は0名(0%)、感覚障害は5名(0.7%)であったと報告されている。
- 側弯症の重症度や手術の方法によっても発生率は異なる。
- 神経損傷発生の要因は、インプラントや器具により脊髄が損傷する、術中の出血量が増えるなど脊髄への血流が乏しくなる、側弯の矯正操作により脊髄を過度に引き延ばして損傷する、など様々である。
- 神経損傷の合併症予防として、手術中に神経が損傷されていないことを専用の機器を用いてモニタリングすることが多い。
- 神経損傷の発生率はインプラントの品質向上や手術技術の進歩などにより減少傾向。
術後感染
どのような手術でも感染の可能性はあります。術中は無菌状態で行われますが、体内や空気中にも細菌は少なからず存在しますし、術後は傷口から細菌が侵入することがあります。感染は傷口(創部)周囲や体内のインプラント周囲で生じます。インプラントを用いる手術では一般的に感染のリスクがやや高くなります。
- 米国のデータでは創部感染の発生率は1.7%と報告されている。ただし、これには創部表層の軽微な感染も含まれている。
- Scoliosis Research Societyという国際的な側弯症学会のデータでは、表在性感染1.0%、深部感染1.7%と報告されている。
- 2014年の国内データでは深部感染の発生率は、3ヶ月以内の早期感染が0.9%、3ヶ月以降の遅発性感染が0.4%と報告されている。
- 側弯症手術後の深部感染は、抗生物質投与や創部洗浄、場合によっては再手術が必要となるなど、治療に難渋することもある。
それ以外の合併症
神経損傷と術後感染以外の合併症は様々あります。注意が必要なものとしては、術中の大量出血、インプラントの不具合、深部静脈血栓症・肺塞栓症などです。比較的、軽微なものとしては、消化器症状、手術体位による症状などが挙げられます。
- 国内データでは、思春期特発性側弯症の手術患者699名のうち、3000ml以上の大量出血:6名(0.9%)、インプラントの不具合:4名(0.6%)、深部静脈血栓症・肺塞栓症:0名(0%)と報告されている。
- 術中出血量の増加に関係する要因として、女性・コブ角が大きい・術前ヘモグロビン値が低い・固定範囲が長いなどが挙げられる。
- 輸血は約25%の患者で必要であったとの報告がある。
- インプラントの不具合とは、ロッドと呼ばれる棒が折損したり、スクリューが緩んだり抜けたりすることなどを指す。
- 消化器合併症は、側弯症手術に多いわけでなく他の整形外科の手術同様に生じる可能性がある。思春期特発性側弯症における発生頻度は2.7%との報告がある。具体的な症状は、便秘・下痢・腸閉塞などである。
- 手術体位による症状には、表皮剥離などの皮膚症状、末梢神経麻痺などがある。これは長時間にわたって手術台に圧迫されることによって生じる。
【実際の病院ではどのように説明される?】
手術を検討している場合に主治医から手術のメリット・デメリットが説明されることがあります。
そのなかで手術の合併症についても触れられることが多いようです。
また、具体的に手術の方針となれば、手術に関する説明書類が配布されます。

説明書類の形式は病院によって様々ですが、必ず『合併症』に関する項目はあります。
実際の病院では、今回取り上げた神経損傷、術後感染、出血など大きな合併症は直接説明があっても、軽微な合併症などは説明書類での案内だけかもしれません。
その場合はしっかりと説明書類に目を通すようにしましょう。
目を通したうえで、気になる点や理解しづらい点は、遠慮なく主治医に相談してみてください。
【まとめ】
✅ 手術合併症には比較的軽微なものと重大なものがあります。
✅ 重大なものには神経損傷、術後感染、大量出血などがあります。
✅ 合併症の確率は、軽微な合併症を含めると1割〜2割程度、重大な合併症では1割以下。
✅ 重大な合併症はゼロにはならないが、インプラントの品質向上や手術技術の進歩などにより減少傾向。

今回お伝えしたのは多くの手術実績をまとめた統計学上のお話です。合併症のリスクは個人個人の状態によっても異なります。主治医とよく相談することが大切です!
参考文献
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正確なデータに基づいた詳しいご説明をありがとうございます🙇♀️
娘は、「術中の大量出血」「消化器合併症」(上腸間膜動脈症候群)に当てはまる事例かと思われます。
親子で凹みましたが、術前にかなり心配だった術後の痛みについては、幸い痛み止めの点滴薬が効いたのか、薬追加のボタンを押す事や飲み薬などを使う事など一度もなく、寝返りなどもすっとでき、拍子抜けしたほどでした😅
本当に症状の出方は人それぞれで、実際に経験してみないと分からないですね😌