側弯症は経過観察→装具療法→手術療法の流れで治療されることが一般的です。
なかでも手術療法は、側弯が今後も進行する可能性がある場合に、進行の予防・側弯の改善を目的に実施されます。
側弯手術はその方法が確立されつつあり、安全性も担保されていますが、それでも心配なのが合併症だと思います。
こちらのスタディブログでもまとめましたが、側弯手術は侵襲の大きい手術となり、手術中あるいは手術後の出血量が多くなることがあります。
手術による出血に対しては、輸血により処置されることが多いです。
輸血と聞くと、献血で集まった他人の血液を使うといった印象があるかと思いますが、その他にも事前に貯めておいた自分の血を使うという方法もあります。
今回は、イメージはできるけどきちんと理解しにくい『輸血』についてまとめています。
手術を検討されている方やご家族は特に参考にしていただければと思います。
側弯手術でも輸血が必要?
側弯症に対する手術は、比較的侵襲の大きな手術であることから出血量も多くなる傾向があります。
出血の量はおおよそ500ml〜1000ml程度ですが、なかには3000mlを超えて出血してしまうケースもあります。
出血が多くなりやすい要因としては、手術時間が長時間であること・術前の主カーブのコブ角が大きいこと(側弯曲が大きい)・固定椎体数が多いこと、術前の貧血傾向などが挙げられています。
ただし、これらに当てはまらないケースでも出血量が増えることは想定されるため、手術を行う際には十分な対策がなされます。
その対策には、大きく2つあります。
「手術中の出血量を抑えるための対策」と「出血量が増えてもカバーできる対策」です。
「手術中の出血量を抑えるための対策」としては、手術室入室後から皮膚切開までの間にトラネキサム酸という薬を投与する、脊柱の固定範囲を最小限に留める工夫をする、などがあります。
そして、もう一方の「出血量が増えてもカバーできる対策」に該当するのが、今回のテーマ『輸血』となります。
同種血輸血・自己血輸血とは?
国内には『日本自己血輸血・周術期輸血学会』という学会が存在します。
自己血輸血および周術期の輸血に関する基礎的・臨床的研究を推進し、自己血輸血および無輸血などの適正輸血の啓発、普及をはかることにより社会に貢献することを目的とした学会です。
こちらの学会サイトから輸血に関する情報を閲覧することができます。
患者・家族に向けたページも用意されていますので、ぜひ参考にしてください。
日本自己血輸血・周術期輸血学会のサイトでも説明がありますが、手術の出血に備える輸血にはまず大きく2つあります。
《同種血輸血》と《自己血輸血》です。
同種血輸血とは他人の血液を輸血することです。
一方で、自己血輸血は自らの血液を輸血することです。
同種血輸血
ボランティアの献血。主に赤十字血液センタ-で採血されたものです。
【メリット】
- 準備が不要:術前の採血や保存が不要で、すぐに使える。
- 安定して供給できる:赤十字血液センターや医療機関で管理された安全な血液製剤が使用される。
【デメリット】
- 感染リスク:ごくまれに肝炎ウイルスやHIVなどの感染リスクがある(現在は非常に低率)。
- 免疫反応:自分と完全一致しないため、発熱やアレルギー反応が起きることがある。
- 同種免疫:複数回輸血を受けることで抗体ができてしまうリスクがある。
自己血輸血
自分自身の血液。病院の採血室や手術室で採血されたものです。
【メリット】
- 感染リスクなし:自分の血液なので輸血感染症の心配がない。
- 免疫反応がない:自分の血液なのでアレルギーや拒絶反応の心配がない。
【デメリット】
- 通院が必要:手術の前に複数回の採血通院が必要になる。
- 体への負担:採血によって一時的に貧血や倦怠感が出ることがある。
- 使用期限がある:保存可能期間があるため、手術延期の際に使えなくなる場合もある。
日本自己血輸血・周術期輸血学会では、安全面を考慮して自己血輸血を推奨しており、実際に側弯手術でも自己血輸血を選択されることが多いです。
自己血輸血にも種類がある?
自己血輸血には大きく分けて、希釈法・回収法・貯血法の3つの種類があります。
手術当日の全身麻酔後に採血して自己血を集める方法が「希釈法」、手術中に出血した自己血を集める方法が「回収法」、手術の数週間前に事前に自己血を集める方法が「貯血法」となります。
側弯手術では「貯血法」と「回収法」が併用されることがあります。
手術前に血を貯める?
側弯手術では出血量が多くなる傾向があるため、事前準備が重要となります。
その事前準備が『自己血貯血』と呼ばれるものです。
字の通りで、自分の血液を抜いて貯めておくという方法です(貯血法)。
診察で手術を行う方針に決まると、そこから手術のための計画が始まります。
心電図などの様々な検査に加えて、自己血貯血も行われることがあります。
数日に分けて病院に通い、計400〜1200ml程度の自己血を採血します。
採血の目標合計量は、側弯の大きさや手術の固定範囲など個々の出血リスクに合わせて設定されます。
1回の採血量の上限は400mlとされるので、目標合計量が1200mlの方は3回に分けて採血を行うことになります。
体重が50kgに満たない場合は、《400mL×患者体重/50kg》を参考とされています。
貧血を有する場合なども1回の採血量を400ml以下に設定することもあります。
自己血貯血を行う際のポイント
実際の自己血貯血のスケジュールは下図のようなイメージです。

1200mlの貯血の場合は1ヶ月ほど前から開始することになります。
1回の採血にかかる時間は約30分となります。
自己血貯血による貧血を抑えるために、鉄剤が処方されます。
採血に関する注意点として、次のようなことを学会では推奨しています。
【採血前日の注意点】
【採血当日(採血前)の注意点】
【採血当日(採血後)の注意点】
予想以上に出血量が多くなった時は?
手術中、あるいは手術後に、自己血輸血では輸血量が十分でない(足りない)場合は、同種血輸血(他人の血液による輸血)を実施することになります。
側弯手術では、出血量が多くなることも珍しくなく、自己血貯血を行なっていても同種血輸血が行われるケースがしばしばあります。
1057名の特発性側弯症手術患者を対象とした論文では、貯血法と回収法の併用にて手術を行なっても、全体の5.0%(53名)に同種血輸血が必要であったと報告されています。
現在の同種血輸血は献血者のスクリーニング検査の改良などにより非常に安全になり、輸血後肝炎などは極めて少なくなったとされています。
しかし、輸血のリスクが完全にゼロというわけではなく、下の表のように副作用が発生する可能性は少なからず存在します。

輸血による感染でよく取り上げられるのが、肝炎とHIVですが、その発生頻度は肝炎が50万人に1人程度、HIVが100万人に1人程度とされています。
他人の血液ということから、「同種血輸血」=「心配」という印象を持ちやすいですが、副作用が発生する確率は非常に少ないのが現状です。
まとめ
- 側弯手術では出血量が多くなることがしばしばあります。
- 側弯手術での輸血は自己血輸血が行われることが多く、事前に自己血を貯めることが一般的です。
- 自己血は手術1ヶ月前ほどから数回にわたって採血されます。
- 側弯手術の95%程度は自己血輸血のみで対応され、5%程度の患者では同種血輸血も行われる場合があります。
- 同種血輸血による副作用のリスクはゼロではないですが、非常に低く安全に行えるようになっています。

手術の方針となった際には、主治医や病院スタッフから「手術の説明資料」が配布されます。その資料の中に、輸血に関する項目も明記されていることがあります。その場合は、そちらの資料の情報を必ず参考にしてください💡
参考文献
日本自己血輸血・周術期輸血学会: “自己血輸血とは (1) − 輸血の方法、同種血輸血の問題点、自己血輸血の方法、各種の自己血輸血の利点と欠点”. https://www.jsat.jp/jsat_web/jikoketuyuketu_toha/pdf/jikoketuyuketu_toha1.pdf
日本自己血輸血・周術期輸血学会: “自己血輸血とは (2) − 貯血式自己血輸血を行う患者さんへの注意点”. https://www.jsat.jp/jsat_web/jikoketuyuketu_toha/pdf/jikoketuyuketu_toha2.pdf
Mun Keong Kwan, et al.: Perioperative outcome and complications following single-staged Posterior Spinal Fusion (PSF) using pedicle screw instrumentation in Adolescent Idiopathic Scoliosis (AIS): a review of 1057 cases from a single centre, 2021.
日本輸血・細胞治療学会: “患者さん用説明書 (輸血/血漿分画製剤使用の前に:図解版)”. https://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/themes/jstmct/images/medical/file/reference/Ref23_1.pdf
貯血の際の針は、通常の採血の際の針よりかなり太いらしいですね😅
ダイスケさんは、大丈夫でいらっしゃいましたか?💦
娘の場合は、こども病院だったからか、貯血の30分前くらいに腕に麻酔クリームを塗っていただきました💉
同種血輸血、献血してくださった方々のお陰ですね🥲
書いてらっしゃる通り、私達も、先生から「献血で回収した血液をセンターで受け入れる際のチェックがかなり厳しいので、感染の確率は限りなくゼロに近い」と説明を受けました🩸
麻酔クリームという対応があるんですね👀
僕は随分前なので曖昧ですが、そのままプスっと刺された記憶しかありません😂
痛かったです(笑)
医師からそこまで言ってもらえると少し安心できますね😳
そのままブスっと😱、いやー、痛そう💦💉
貯血、今頃ですが、本当にお疲れ様でした、、、😢
麻酔クリーム?(正式名称ではないですが💦)、白いクリームで、肘の内側に塗ったあとに大きな正方形?丸型?の絆創膏を上からあててクリームを行き渡らせているようでした🩸💪
当時の自分、おつかれ様でした😂
エムラパッチ
リドカインテープ
などの表面麻酔シールがあると知りました💡
勉強になりました!ありがとうございます^ ^