側弯症の傷口のケア

傷口のためにできること

今回は、手術の傷口についてです。

側弯手術では背中の傷口は数十センチにもなるため、傷の治りが気になる方がほとんどだと思います。

☑︎ 一般的にどのような経過で治っていくのか

☑︎ 傷口の治りに関わる要因にはどんなものがあるのか

☑︎ 傷口を綺麗に治すためにできることはあるのか

今回のスタディでは、これらの疑問が解決するように傷口に関する医学知識をまとめました。

最近手術をされた方、これから手術を控えている方は特に参考にしていただけると嬉しいです。

側弯手術の傷口について

側弯症の手術は、後方から脊椎を固定することが一般的で、背中の真ん中に傷口が生じます。

傷口の大きさは身長や手術で固定する脊椎の範囲によっても変わりますが、20〜30cmとなることもあります。

前方から脊椎を固定する場合は、脇腹あたりに傷口が生じますが、こちらの方が傷口は少し小さいことが多いです。

《後方固定と前方固定の傷口のイメージ》

また、骨盤(腸骨)から健康な骨を採取することもあり、その場合は腰の下の骨盤あたりにも小さい傷口が生じます。

側弯手術は、整形外科手術やその他全身の外科手術を含めても、長い皮膚切開を必要とする手術となります。

残らない傷、残る傷

そもそも傷跡が残らずに治ってくれるのが最も嬉しいことですが、残念ながら側弯手術に限らず、多くの整形手術では傷跡は残ってしまいます。

傷跡が残るか残らないかの違いは、傷の深さと傷の治癒過程が関係すると言われています。

一般的に、皮膚表面の表皮と呼ばれる層までの比較的浅い傷は、正常な皮膚の再生が生じ、傷口がわからないくらいに綺麗に治ることが多いです。

一方で、真皮と呼ばれる層まで達する傷となると、瘢痕(はんこん)と呼ばれる完全な皮膚組織とは異なるもので修復されるため、傷跡が残ってしまいます。

《組織の模式図》

側弯手術は背骨を矯正するものであり、関節や骨まで達する切開が必要であり、どうしても傷跡が残ってしまうということになります。

傷口の一般的な治癒過程

傷口の治る過程には大きく3つの段階があります。

最初は『炎症期』と呼ばれる時期が2〜3日あり、次に『増殖期』が2週間程度続き、最後に『成熟期』へと移行していきます。

《ニチバン株式会社「ニチバンの傷あとケア ~目立たない傷あとを目指して~」資料より一部改変》

炎症期

炎症期は手術直後から通常3日くらいまでの時期で、表皮の再生が開始されます。組織の修復反応より滲出(傷口からにじみ出てくる透明や薄黄色の液体)、組織破壊、白血球浸潤などの炎症反応が前面に出ている時期です。傷口自体は熱っぽく、腫れぼったい感じを伴います。

また、炎症反応が盛んな時期は一般的に痛みを感じやすいため、実際の手術後も翌日から3日くらいまでが痛みが気になることが多いです。

増殖期

第2の増殖期は通常3日〜2週間くらいの時期で、肉芽形成(赤くやわらかい粒状の新しい組織)、線維化(主にコラーゲン線維などに置き換わっていくこと)とともに表皮の再生が盛んになります。

この時期の終わり頃には、傷口の収縮(縮こまる)が起こり、傷口が開いたりすることがなくなっていきます。

成熟期

最後の成熟期は通常2週間以降の時期で、時には年単位にもおよぶ期間にわたります。この時期は、主にコラーゲン線維などが造り換えられ、治癒した傷口の強度が増していきます。

順調に治癒が進むことで、傷口の赤みや盛り上がりなどが減っていき、徐々に傷口が目立ちにくくなります。

それぞれの時期を大雑把に表現すると..

炎症期 →「治す準備段階」

増殖期 →「仮修復」

成熟期 →「本修復」

のようなイメージです。

順調に治癒が進むと最初は盛り上がって赤く腫れぼったかった傷口が、徐々に平坦に赤みも減って目立ちにくくなります。

問題なく治っていけば大体3ヶ月程度で傷口は安定してきます。

《傷口の治癒(小川, 2025より引用)》

一方で、何かしらの要因で治癒が妨げられると、肥厚性瘢痕やケロイドと呼ばれるような状態に移行してしまうこともあります。

通常の瘢痕と肥厚性瘢痕・ケロイド

手術の傷口は完全に再生するわけではなく、瘢痕という組織に一部置き換わりながら治っていきます。

いつでも問題なく傷口が治ればいいのですが、なかには通常の瘢痕とは違った状態となることもあります。

それが、肥厚性瘢痕やケロイドと呼ばれるものです。

ケロイドという言葉は一度は耳にしたことがあるという方もいると思います。もう一つの肥厚性瘢痕については馴染みがないと思いますが、これはケロイドになってしまう前の段階とイメージしてもらえたら大丈夫です。

正常な瘢痕、肥厚性瘢痕やケロイドのそれぞれには以下のような特徴があります。

通常の瘢痕

・白く扁平でやや光沢のある表面

・押さえても色の変化なし

肥厚性瘢痕

・赤褐色に隆起した表面

・平滑な硬い腫瘤

・押さえると赤みが褐色する

・軽い痛みや痒さを伴うことあり

・傷の周りは大きくなるが周りに広がらない

・半年から数年で自然に消退することあり

ケロイド

・赤褐色に隆起した表面

・平滑な硬い腫瘤

・押さえると赤みが褐色する

・痛みや痒みがあることが多い

・傷口だけでなくその周囲の正常な部位に広がる

・自然消退せずに増悪しやすい

肥厚性瘢痕は、傷口に限局して明瞭な腫瘤を形成し、4週間以内に生じて数ヶ月で増大します。その後、退縮して半年から2年程度で自然に扁平化すると言われています。

一方のケロイドは、赤褐色に大きく隆起した硬い腫瘤で、傷口の範囲を超えて周囲の健康な皮膚にも広がっていきます。手術して4週後くらいから生じてゆっくりと増大し、治りにくく、治療に難渋することがあります。

ケロイドでは傷口以外の部位に広がるように症状が見られ、放置していてもよくなることがないのがポイントです。

傷口の治癒に影響する要因

正常な瘢痕ではなく、肥厚性瘢痕やケロイドに移行してしまう詳細な原因は不明であるとされますが、影響する因子として、①遺伝的素因、②傷口の場所、③物理的刺激が挙げられます。

①遺伝的素因

人種の違いによってケロイドのなりやすさやケロイドが生じる部位などが異なります。

一般的に、ケロイドは有色人種に発生しやすいと言われています。

ケロイド体質と呼ばれたりするように、個人の体質も関係すると言われています。

年齢による違いでは、小児は肥厚性瘢痕やケロイドになりやすく、高齢者は起こりにくいとされています。

②傷口の場所

肥厚性瘢痕やケロイドは傷口の場所によって発生しやすかったり、発生しにくかったりします。

肥厚性瘢痕もケロイドも好発部位(発生頻度が比較的高い)は、基本的には同じになります。

具体的な部位は、耳介・耳後部・前胸部・上背部・肩部・上腕外側部・腹部・恥骨部・鼠径部などが挙げられ、これらの部位は軟骨や骨の直上で皮膚の緊張が強いという特徴があります。

側弯手術の後方固定では背中に傷ができますが、背中も皮膚が厚く伸びにくく、肩や腰の運動で常に引っ張られやすいため、肥厚性瘢痕やケロイドに移行することもあります。

《肥厚性瘢痕・ケロイドの好発部位》

③物理的刺激

傷口に何度も反復して物理的刺激が加わると肥厚性瘢痕やケロイドに移行する可能性があります。

主な物理的刺激には、衣類などが擦れて生じる「摩擦刺激」、傷口が直接あるいは周りの皮膚を介して引っ張られて生じる「伸展刺激」があります。

《摩擦刺激と伸展刺激》

これら3つの要因が傷口の治癒に関係すると言われています。

しかし、「遺伝的素因」や「傷口の場所」については、側弯症当事者や家族が注意することや対策することは難しいので、傷口の自己管理で大切になるのは「物理的刺激」をいかに減らすかという点です。

傷口のためにできること

術後の傷口の自己管理で大切なことは、傷口を清潔に保つこと、傷口に余計な負荷をかけないことです。

傷口を清潔に保つ

傷口が汚染されたままであると、細菌等が傷口に付着し、創部感染を起こす可能性があります。

創部感染は、傷口の治癒を阻害してしまうため、傷口を清潔に保つことが重要です。

術後にシャワー浴や入浴が許可されたら、自分でも優しく傷口を洗うようにし、清潔にすることを心掛けましょう。

物理的刺激を避ける

肥厚性瘢痕やケロイドに移行する要因のひとつに、物理的刺激が挙げられます。

そのため、手術後は傷口に加わる物理的刺激を極力減らすことが望ましいです。

物理的刺激には「摩擦刺激」と「伸展刺激」があります。

摩擦刺激は傷口が擦れることを指しますが、衣服による刺激や洗体時の刺激などが起こり得ます。

衣服による刺激はあまり気にしすぎる必要はありませんが、ゴワゴワのシャツなどは避けて、比較的、肌触りのよい衣服を着るようにすれば充分です。

わざわざ買い揃えなくても、自宅にある衣服の中から、なるべく肌触りのよいものを選んで着るようにするといいと思います。

洗体時の摩擦刺激については、シャワーはぬるま湯とし、傷口は直接タオルなどでゴシゴシ洗わずに、洗顔のように手で洗うと大きな摩擦が生じなくて良いです。

《摩擦刺激を減らすポイント》

一方で、側弯手術の場合は、術後にコルセットを使用することがあります。

病院によっても方針は異なりますが、3ヶ月程度にわたってコルセットを装着することが多いです。

術後のコルセットについては、側弯治療としての装具療法で用いるオーダーメイドのコルセットとは異なり、既製品を使用することが一般的です。

体格に合わせて術後のコルセットのサイズは選んでくれていますが、ピッタリとフィットしないこともあります。 コルセットが身体に合っていないと、コルセットと身体が安定せずに、一部の皮膚などに圧迫が加わったり、擦れたりする可能性があります。

術後のコルセットを装着してみて、少しでも違和感や皮膚などに圧迫された赤みなどがあれば、病院スタッフに相談してみてください。

コルセットのひもを調整したり、場合によってはパッドなどを当てて、修正してくれることもあります。

次は伸展刺激についてです。

摩擦刺激よりも肥厚性瘢痕やケロイドと関連があると考えられています。

伸展刺激は傷口が上下左右に引っ張られる刺激のことをいいます。

多くの側弯手術では背中に比較的大きな傷口が生じるため、普通に生活してても首や腰の動きにつられて傷口が多少引っ張られます。

傷口に伸展刺激が全く加わらないようにするのは不可能ですが、少しでも減らすことが重要となります。

そのための対策として、最もよく行われるのが、傷口にテーピングを行うという方法です。

抜糸した直後からテーピングを行い、傷口がしっかり安定するまで最低1ヶ月は行うことが推奨され、引っ張られやすい部位の傷口では3ヶ月くらい続ける場合もあります。

傷口のテーピングに使用するテープは、伸縮性のない紙テープ(例:3M社のMicropore™ [マイクロポア サージカルテープ] など)が一般的ですが、病院でお勧めされたもの、あるいは病院の売店で購入できるものを準備するといいと思います。

《使用されるテープの一例》

全体の貼り方としては、側弯症の傷口に対しては垂直に貼ることが一般的です。

それぞれのテープの間隔は詰めて貼らなくても2〜3cm間隔でも効果はあるとされています。

それぞれのテープを貼る順番は、傷口の中央の背中真ん中あたりから貼り始めて、上下(首・腰)に広げて貼っていくと良いです。

一番上の部分(首側)と一番下の部分(腰側)の傷口の縁をしっかりと覆うことも大切です。

《テープの貼り方 (全体) 》

傷口の縁を覆えていない場合や、傷口に対して垂直に貼れていない場合は、傷口に加わる伸展刺激を減らす効果が得られにくくなりますので、知っておきたいポイントです。

《傷口に対するテーピングの悪い例》

それぞれ一枚一枚のテープの貼り方としては、傷口の左右のどちらか一方にテープを半分貼り、皮膚になじませます。

皮膚になじませることで、安定した粘着力が得られます。

次に、軽くテープを引っ張りながら、傷口を越えて反対側の皮膚に貼り付けると完成です。

貼り付けた後に皮膚にシワができている時は、テープを引っ張りすぎている可能性があります。

その場合は、テープを貼り直して皮膚にシワがないことを確認するようにしましょう。

テープの張り替えは、汗の量や肌質に応じて毎日もしくは数日置きに行うといいです。

それぞれのテープを貼り付ける前には、傷口を清潔にして、乾燥させた状態にしましょう。

《3M サージカルテープ カタログより引用(一部改変)》

反対にテープを剥がす場合は、皮膚の負担を軽くするため、テープを約180度に折り返し、皮膚が持ち上がらないように手で押えながら、体毛の方向に逆らわずゆっくりと剥がすと良いです。

《3M サージカルテープ カタログより引用》

強い日焼けを避ける

これはおまけですが、術後半年程度は強い日焼けをしないことを推奨している論文もあります。

日焼けにより創部の色素沈着をきたすと考えられているようです。

屋外に長時間出る際や海水浴など、強い日焼けが想定される場合は、日焼け止めを使用するのがよいかもしれません。


これらの注意点や対策は、あまり神経質に実践しなくても、負担にならない程度にできるものだけするというスタンスで大丈夫です。

背中のテーピングは本人には難しいことが多いので、ご家族の協力があると助かると思います。

傷口を定期的にチェックする機会にもなりますので、ぜひ可能な範囲でテーピングをしてみてください。

傷口の治りが悪いと思ったら?

傷口の治りが気になる時は、主治医へ相談です。

手術後1〜3ヶ月程度経って、傷口が赤みが増している場合や痒みなどがある場合は、退院後の定期検診などで遠慮せずに相談するようにしましょう。

肥厚性瘢痕やケロイドに対しても早めに治療を開始することは重要です。

保存的治療には、物理的な治療として圧迫療法、薬物療法としてステロイド外用(テープ)、局所注射,抗アレルギー薬内服などがあります。

基本的には保存治療が第一選択となりますが、保存的治療では改善が見られない場合は、外科的手術によって治す方法もあります。

肥厚性瘢痕やケロイドの手術については、形成外科が専門とする分野でもあるので、形成外科医が治療することもあります。

まとめ

  • 手術による傷口は深い傷であり、皮膚が完全には再生せずに、瘢痕という組織に一部置き換わって治ります。
  • 傷口の強度は術後3ヶ月を目安に安定してきます。
  • なんらかの影響で、肥厚性瘢痕やケロイドに移行することもあります。
  • 傷口をきれいに治すためにできることは、『清潔を保つこと』、『物理的刺激を避けること』が挙げられます。
  • 物理的刺激を避ける方法のひとつに傷口へのテーピングがあり、適切に貼ることで、効果が期待できます。
  • 傷口へのケアは、無理のない範囲で実践することが大切で、異変を感じる・心配な場合は主治医に相談するようにしましょう。

今回ご紹介した内容は一般的なものです。術後のさまざまな処置や対応は、個々の状態に合わせて、実施されています。

主治医や病院スタッフの指導がある場合は、必ずその指示を優先するようにしてください💡

参考文献

ニチバン株式会社: ニチバンの傷あとケア ~目立たない傷あとを目指して, 2016.

小川令: 術後創部管理, 2025.

井上覧二郎ら: ケロイド,肥厚性癩痕の発生機序と対策 -胸部正中創を考える-, 2000.

Anna Swenson et al.: Natural History of Keloids: A Sociodemographic Analysis Using Structured and Unstructured Data, 2024.

渡部功一ら: 肥厚性療痕, 2009.

小室裕造: 傷跡の形成術, 2005.

岡部圭介: 帝王切開創部のケア, 2023.

田井良明: 創治癒の基本, 1997.

Sarah O’Reilly et al.: Use of tape for the management of hypertrophic scar development: A comprehensive review, 2021.

3M Japan co.: Surgical Tapes カタログ, https://multimedia.3m.com/mws/media/1644156O/hpm-298-f-surgicaltape-web.pdf.

Han Liu, et al.: Ultraviolet B Inhibits Skin Wound Healing by Affecting Focal Adhesion Dynamics, 2015.

4件のコメント

  1. 今一番知りたい情報でした🙇‍♀️
    詳しくありがとうございます😊
    マイクロポアテープ、娘に貼っていました😃
    粘着力が強いのか、剥がす時が痛いみたいですね💦
    しばらく、テープの跡も残りました😅

    術後、娘の傷跡が3回くらい縦5センチ程開くというか、少量の浸出液っぽいのが出たことがあり、心配していました、、、。
    深部感染とかだったらどうしようかと😭
    明日、術後半年検診なので、先生に確認するつもりです。

    ダイスケさんは、術後の傷跡の経過は順調でいらっしゃいましたか?

    1. 剥がす前に、ベビーオイル的なものを上から染み込ませて剥がすと多少マシかもしれませんね💡

      傷口心配になりますよね、、
      僕は幸い順調だったように思います。

      診察結果いかがでしたか?
      差し支えなければ、、🙇

    2. ダイスケさんは、術後の傷口の経過は順調だったんですね😃
      何よりです😊
      ベビーオイル、なるほど、身近なもので対応できそうですね👍🙇‍♀️
      私は、3Mのキャビロン皮膚用リムーバーというものを使用していました。
      傷跡専門クリニックを開業していらっしゃる形成外科医のYouTubeチャンネルで知りました💻

      娘の診察結果、ありがとうございます、特に問題無しでした😌🏥
      先生曰く、「皮膚の下で縫合している糸を、身体が排出しようとしている反応。もしかすると、数回の傷跡の反応で糸が出ていったかも。深部感染の心配は、全然問題ない。もしそうだと、ずっと発熱しているはず」とのことでした、、、。
      対策としては、以前膿んだ箇所を覆う必要はなく(診察時点で傷口は乾いています)、状態が落ち着くまでしばらくステロイド剤を塗る、ということでした。

      色々不安でしたが、ひとまずホッとしています😢

    3. リムーバーというものがあるのですね😳勉強になります☺️

      診察結果、大きな問題なかったとのことほんと良かったです!!
      今後も順調に経過することを祈っております👏🏻👏🏻

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